コミュニケーションのむずかしさを描きたかった
―だからでしょうか、単行本の6巻でキャラクター一人ひとりの背景や経験が描かれてますけど、事実と心情で止まっていて、変に一線を超えてないですね。意識的にそうされたということですか。
はい、そこのコンセプトで言うと、硝子の障害に当たる部分、治したくても治せないもの、自分の属性だったり性格だったりというモノを各キャラで当てはめて描いているんです。だから治せない自分の性質に自分で気づいて、それを受け入れるか、受け入れないかという…。高みを目指して変化を常に求めているキャラ(佐原)は、これからもずっとそうしていく。自分を可愛いと思うことが嫌われる汚点であるけれど、そこを受け入れることに気づいて、もうちょっとずうずうしく生きていくキャラ(川井)もいる。硝子に足りないモノを描いた感じですね。
―硝子の感情だけがわかりやすくは描かれてないですよね。表情はわかるけど、それ以外は謎の人物。硝子は観察される側として、敢えてそういう描き方を?
そんな感じです。こういう顔してるけど、実は真逆なこと考えてるかもしれないよ、っていうテーマなんで。一番最初の投稿作のネーム段階では、硝子の思いも描かれてたんですよ。当時の担当に「なくした方がおもしろいんじゃない」と言われてとっぱらったら、よりスッと筋が通ったなという気がして。それが連載まで続いている。
―声を出してしゃべらないという決定的な違いが(コミックでも)反映されているんですね。
いじめの問題をひとつのテーマにはしているけど、いろんな人間のドラマになっていて、伝えたいコトというのは明確には見えてこないですね。強いて言うと、将也と硝子が変な出会い方をしちゃった。でも二人は相思相愛ですよね。
いじめの話だっていう入りで読んだ人はそういう結論めいたものを欲しがるんだと思うんですよ。でも私は最初からコミュニケーションの話だって言ってて、いじめの話なんてこと言ったことないんです。コミュニケーションの問題から来る、結果としてのいじめとか、コミュニケーションからくる心の変化をテーマにしているので。
―最初、硝子の母親がなぜこんなに冷たいんだと感じたんですが、コミュニケーションの問題だと聞くと、つながりますね。それと、将也のお母さんが、すごくいいですね、本当にいそうなキャラクターで。想像ですけど、大今先生ってすごく仲のいい家庭で育ちました?
どうやろ…チャーミングな母親。メールにめっちゃ顔文字使ってくるタイプの。電話とかかかって来るんですけど、「愛してるよって言って!」とか言う。言わないと電話切らせてくれないんですよ。かといってべったりでもない、放任されてたかな。テストの点が悪くても興味がない感じで。
―この作品を通してみんなに聞いてみたいと思ったことについて手応えはありましたか。新しい感情や問題意識が湧いたとか。
わかんないな…わかんないけど、いろんな話が聞けて幸せでした。
―それは話し合うきっかけや場所を自分の手で作り出せたから?
それもありますね。いいタイトルつけられたなと思いました。このタイトルのおかげで描きやすくなったな、と。漢和辞書を引いていろいろ探していて、「聲」の字を見つけました。この漢字を構成しているそれぞれには意味があると。「声」があって「耳」で聞いて、「手」があって、言葉だけで伝えるのではなく、言葉以外のところにその人の言わんとするメッセージや拾える気持ちがある、ということで旧字体を使ったんですよ。そっちの方がテーマがわかりやすいんで。
―友達のいない将也から見たクラスメートの顔にバッテンがついている表現は、どうやって思いついたんですか。
はじめに見開きで教室のシーンが思い浮かんで、バッテンの付いたクラスメートがバーッといて…というのを描きたいなと思って。バッテンのついた人の、顔を見たくない感じとか、目を合わせられない感じとかを…。
―自分から進んで、全員に対して心を閉ざしていることがわかる。発明ですよね。
映画化、そして次回作
―『マルドゥック・スクランブル』はコマ割りがすごいですね。アクション映画というか。『聲の形』とは全然違う監督が撮ったかのようです。映画とかって結構ご覧になりますか? 好きな映画は何ですか?
見ないともうーってくらい見てます。マルドゥックの時より今の方が見てる。洋画ばっかりですけど。『スラムドッグ$ミリオネア』! 最後のダンスの爽快感が。あそこでなんで踊るんだっていう人がいますけど、何言ってるんだ!と。これが強烈でインド映画好きになりました。『きっとうまくいく』はよかった。
―『聲の形』も劇場版映画になりますね。
9月末に公開予定です。私は脚本を監修させていただいて、今は監督が絵コンテを描いています。あと私はキャラクターデザインをチェックするくらい。
―次回作のご予定は。
準備はしているんですけど、あーっ、はよやらないと、って感じで…。まだタイトルが決まってなくて。ということは自分の中でゴーサインが出てないような感じなんですよ。だからストーリーがグラグラしていて。1話目が半年前にできたのに、2話目はまだ。実は今日この後も打ちあわせがあって、(3月半ば)描いてきたんです。冒頭って種をまく作業じゃないですか。どの種をまいていいのか、まいちゃいけないのかを選ばなくちゃいけなくて、その取捨選択が…。この連載は年内には始められると思います。ちょっとファンタジー要素のある作品になります。
―7年もひとつの作品に携わってきて、次を描くって怖くないですか。
こわいな~~。連載中って何もできなくて。何もできないということは、考える時間も少なくなっていくんですよ。だからどんどん自分のマンガがつまらなくなるんじゃないかという心の疲労が作品に反映されて…いつガス欠になるのかと…。
―連載って大変ですよね。一話で評判が動いたりするわけでしょう。それに編集者とのやり取りが結構あるのでは? 時には編集者さんが自分の意にそぐわないようなことを言ってきたりはしないんですか?
しますね~。(そんな時は)その意見はわからんと言って、説明をもらってイメージを共有できれば描けるし、最後までわからなければ、「イヤ」と言う。それでも担当さんが「こっちの方が絶対いいと思うんだけどなー」と言ったら、怒る(笑)。
―担当さんって、時には会社の人事異動でで変わったりするわけでしょ? それなのに作品上はすごく大事なんですね?
大事ですね。言うことが人によって違うんですよ。前の人はこう言ったのに、今回の人はこう言うみたいな。でも、それでいいんです。リアルな読み手の声を知りたいので。今の編集さん2人が天才なんですよ。私、「面白い」と言われないと描けない病なんで。安心させてくれないと描けない…。担当さんが面白いって簡単に言う人じゃないから…。フィルターのような役をしてくれるんです。
―そんな重圧があるんですね…。みんな応援しています。映画と次回作、楽しみにしています。
執筆協力:矢島 史
photo:佐藤 翔
大今 良時(おおいま よしとき)
(プロフィール) 1989年3月15日生まれ。岐阜県大垣市出身。第80回週刊少年マガジン新人漫画賞入選。2009年『マルドゥック・スクランブル』(原作冲方丁、全7巻)で連載デビュー。2013年より「週刊少年マガジン」にて『聲の形』を連載開始。2014年に連載終了と同時にアニメ化が発表された。