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第十九回 箭内道彦 ✕ 太田恵美

箭内: 半分以上はわりといまのことを聞きたいなと思ってまして。

太田: 私、ネタないですよ(笑)。

箭内: いや、柔らかい話のほうがいいです。ネタっぽくないほうが。

太田: 意外と初対面ですよね?

箭内: 昔、TCCの審査会のときに「こんにちは」って言ったくらいですね。普段はよく知ってる方にお願いすることが多いんですけど、今日はあえて太田さんに挑んでみようと思いまして。

太田: 恐縮です。こちらこそ。

箭内: 太田さん、さっき「そんなにネタないですよ」っておっしゃいましたけど、なんて言うんですかね? 広告界というかコピーの世界における存在感が大きいじゃないですか。大御所ぶってない大御所というか。
たとえば取材を受けても、ふつうはちょっと面白いこととか強めのことを言ったりして、自分のポジションを更新していこうとか、自身を広告しようみたいな思惑が大なり小なりみなさんあったりするのかもしれませんけど、太田さんにはそういう空気感まったくない気がして。

太田: みんなによく言われます。

箭内: なので、こういうところに出ていただくのも心苦しいですけど、ご自身でスタンスを定めてる部分ってあるんですか。派手に露出するよりも地道にいい仕事をしようみたいな。

太田: そうですね、子供の頃の経験が大きいのかもしれない。いい気になってやってしまったしくじりがあるんです。で、あんまり調子に乗ると、結局、身を滅ぼすことになりかねないなと、子供心に実はちょっとわかったところがあって。

箭内: 結構、早熟なんですね。

太田: まあ、マセてたんですね。ヘンに飛び出るより、「日々生きていければいいや」って思うような子供で。それでたぶん、ここまで細々と生きながらえてきたのかも。
あと、世代もあるのかな? 私は1970年代初頭に大学生だったわけですよ。そしたら、私の世代で4年制大学に進学する女性って全体の6パーセントくらいで、お見合い結婚したり専業主婦になるのがまだ当たり前だった時代ですから、仕事への門戸もそんなに開かれてなかったんですね。
縁故入社みたいな道はあったんですけど、私みたいな地方出身者にはその縁故すらなく、そのとき「望まれてない子なんだな」っていう思いも散々しましたから、生きていけるだけでありがたいというのが強くあるんじゃないかと。そういう思いで細々と続けてきたんですけど。

箭内: いや、細くはないですよ。

太田: いやいや、ある意味ではズルいんです。さっきおっしゃったように早熟っていうかマセていて、それで勝てると思ってたフシもあって。

箭内: あのー、自分の頭でもまだまとまってないこと言いますけど、太田さんってどことなく女優ぽくないですか。

太田: なんですか、それ?(笑)。

箭内: 60代できちんと60代の役をされる女優さんたちに近い何かを感じて。歳を重ねることと生きることがちゃんと並走してるというか、そのことと仕事がつながってるところが女優さんぽいのかなと思ったんですけど。
つまり、"最優秀助演女優賞"的なことですよね。前に樹木希林さんと話したときに、「年相応じゃないと、その年齢の役は来ないんだ」っていうことを教えてもらったことがあるんですけど、ちゃんと歳を重ねていくことって難しいと思うと、太田さんは50代、60代とキレイに着地していってますよね?

太田: それは意識的にやることではなくて、やっぱり日々の積み重ねなのね。むしろ「何年生きました」なんて思わないことなのかなと。

箭内: 太田さんはどんなふうに日々を重ねているんですか。

太田: 今日できることを今日やる。それだけ(笑)。「これをしなさい」と言われればします。やらなくていいのならやらない。その積み重ねですね。でも、みんなどうやってるんでしょう?毎日の過ごし方って。やっぱり目標立てたりするんですか。

箭内: しないですね。

太田: ですよね? 「これで今日寝ていいんだっけ?」「明日大丈夫なんだっけ?」なんて思いながら寝る。そういうことだと思うんです。で、朝起きて、「今日何やる?」「あー、忘れてた」とか「忘れてない」とか、それで過ごしていくということじゃないのかな?

箭内: まあ、そうですよね。ちなみに「女性として」みたいな話って、どうですか?

太田: わりと避けてきてはいるんですよね。いろんなところで「女性クリエイター」ということでまとめられそうになると、「ちょっと忙しくて…」なんて言って逃げたりだとか。紛れもなく女性であるし、その特性も持ってるし、男性とは違うなとは思うんだけど、それは結果で出て来ればいいことじゃないかしら。あんまり意識するとロクなことないから。

箭内: うん、「女性か男性か?」って話だけじゃなくて、「若いかベテランか?」みたいなこととか、「東京か地方か?」みたいなことも全部本来関係ないんですよね。

太田: そう、関係ないですよね。

箭内: そういうスタンスで仕事をされていることで、謙虚な神様が書いてる感じになるというか。だから太田さんは大きいんでしょうね。

太田: 大変ですね!褒めなきゃいけなくて(笑)。

箭内: いや、いま分析中です(笑)。大きさのワケがちょっとでも若い人たちに明かされると面白いなって。太田さん、平等ですよね? 若いから見下したり、年上だから媚びたりしないでしょ?

太田: そりゃ、みんなそうなんじゃないですか?でも、怒りますよ、私。年上だろうと年下だろうと、身勝手だったりズルいところを見るとすかさず怒る。

箭内: 佐々木(宏)さんのことも怒ったりするんですか?

太田: そうそう(笑)。まあ、向こうもこっちを怒るけど、佐々木さんに対しても大島(征夫)さんに対しても怒るし、「それはないわよね」なんてことも言います。
一方で、佐々木さんたちがやってることの無邪気さっていうのは心から羨ましいと思うから、そこにあんまり大人の理屈を持ち出すのは、やらないようにしてるんですけど。