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第二十四回 箭内道彦 ✕ 小池一子

箭内: 小池さん、今日はよろしくお願いします。

小池: 私こそ。ちょっとドキドキしていますけど。

箭内: 広告ロックンローラズのゲストを、次は小池さんに是非お願いしたいですねって話を去年していまして、「さあ、やるぞ」っていうときにコロナがやって来て。1年間ずっと小池さんにいつ会えるんだろうっていう風に僕ら思ってましたから、今日を迎えられたのはとてもうれしいです。しかもオンラインでのインタビューを受けてくださるなんて。そんなの失礼じゃないかと思っていたので。

小池: こちらこそ。オンラインでお話しするんですよね。なんて言うのかな? 長年生きてきたことは事実だから言いますと、面白いです。晩年のこういう時間に、こんな環境を迎えるかと思うと。先に逝っちゃった人たちに、話したいこといっぱいあります。

箭内: 天国に行ったみなさん、びっくりするでしょう。信じないかもしれませんね。

小池: ちょっと想像つかないですよね。初期にはパリやミラノの知人たちが、なんか変って言い出したんですけど、パリだとシャンゼリゼだったり、ミラノだとドゥオーモの広場、そういうところに人がいないというイメージが信じられなくて。「これってすごいね、SF映画のようで」なんて言ってたくらいでね。エイズ、サーズ、コロナの流れで見ていくと、来るべきものが来たのかなという実感はあります。

箭内: 小池さんはこの1年、どんな風にコロナの日々を過ごされていたんですか。

小池: そうですね、仕事をしてました。去年は3冊の本を同時につくる羽目になって、1年はあっという間に過ぎちゃいましたね。
私が仕事をしているスペースの右側にうちの庭があるんですけど、春先のいまの時期だと木々の花が毎日変化していくのがわかります。今日なんてキジバトが来て「ああ、綺麗だな…」なんて思いながら、Macに向かってました。
ただ、そうやって仕事をしているのは太陽が沈むまで。夕方5時半か6時になると、立ち上がって飲むことを始めるんです。うちに相棒がいますから、彼とチーズや小魚なんかをつまみながら、赤ワインや日本酒を飲んでいると、だんだん夜に入って行く。そうやって、かなり長い時間つくったり食べたりしています。「食べる、飲む」はとても大事ですね。

箭内: コロナの状況にただ戸惑うっていうんじゃなく、生きることを楽しんでらっしゃる。そこからいろんなリアルな仕事が生まれてくるんだなって、いまのお話で感じたんですけど。

小池: そうありたいですけどね。「なんでこんなに仕事するのかな?」って言うと、呼びかけたいから。たとえばアートの現場でも、何かをしたい女性や若い人たちがいっぱいいるんですけど、それがなかなかうまくいかない、現場のほうでも応えられてないという状況がありますから。若い人たちがこれから長い時間を過ごしていくために、自分から開拓する気持ちを持ってもらいたいし、人の出会いの大切さみたいなものを感じとってもらえればという風に思って、本の仕事もやってるんですけど。

箭内: このお話の流れでうかがっていくと、小池さんはクリエイティブ・ディレクターですけど、いわゆる広告代理店的なクリエイティブ・ディレクターとも違って、もっと大きな範囲でクリエイティブ・ディレクションされてますよね? 例えばアートのプロジェクトだといま、アーツ千代田3331の中村政人さんと一緒に「東京ビエンナーレ2020/2021」に取り組んでらっしゃったり。

小池: これを言い出したのは中村さんで、私は彼から話を聞いて応援したいと思って共同代表を引き受けたわけですけど、もとは二人の人間の結束から始まっていることですからね。東京ビエンナーレでの私たちのミッションは、市民の立場で関わろうということなんです。
もちろん、国際アート展を開催しようなんて思うと、大きなことを動かさなきゃいけないのでコミッティが必要でしょう? それも、私、「市民委員会」という名前にしたいと言ったんです。たんに実行委員会ではなくて。地域のコミュニティにアートを浸透させていきたいわけですから。神田から上野、浅草に至る商店主の方たち、企業やNPOの方々も異論なく、みなさん市民委員会に参加くださってる。それが私たちの支えになっています。

箭内: 東京ビエンナーレのプレイベントでは、僕も少し協力させていただいたり、あとクラウドファウンディングにも参加させていただきました。

小池: ありがとうございます。コロナで1年延期になりましたが、いま、様々な動きが起きています。
例をあげると、象徴的なのは中村政人さんがやっている「優美堂再生プロジェクト」ですね。神田小川町に古い額縁屋さんがあるんですけど、そのお店を市民のボランティアとお掃除するところから始めて、額を仕分けしたり、中に入っている複製画を新しいものに変えたり、参加者とディスカッションしながらリノベーションしていく計画なんです。
私もアーティストの内藤礼さんたちと「Praying for Tokyoー東京に祈る」という展覧会をつくろうとしています。私の世代はまだ子どもでしたけど、東京大空襲の記憶がありますから。東京でビエンナーレをするからには、まず、当時の東京人への鎮魂をちゃんとやりたいと思って。「反戦」といった大きな言葉じゃなくて「祈る」。その言葉に内藤さんが強く感応してくださった。

箭内: どんなことが起こるのか楽しみですね。