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箭内: 以前この連載で岡さんと話したときに「スタッフやメンバーが耳を疑うような指示を出せるのがいいクリエイティブ・ディレクターだ」とおっしゃってたんですけど、要は正しく、かつおもしろい正解を出せるかってことですよね? そう考えると、ほんとに特殊技能というかね、だれでもできることではないですよね。

古川: ただ、そうは言っても将棋の棋士や指揮者のように先天性がすべてな職業と違って、クリエイティブ・ディレクターって、ある程度多くの人ができる仕事なんじゃないか? とも思うんですよ。なぜなら極めて論理的なもので、内容をみんなとシェア進めていくものだから。

箭内: 例えば、いまクリエイティブ・ディレクターになりたての人がこの記事を読んでいるとして、どんなことに気をつけていけばいいと思われますか?

古川: CDの仕事はロジカルと言ってますけど、最初と最後は直観なんです。今回、この場所を選び取るぞ、というのは、実は本能に近いんです。で、仮決めした後、ここと比べて他の場所がダメなところと、他の場所と比べてここがよさそうなところとを、アタマの中に並べてバサバサと検証していきます。“よし、これだ”みたいなことではなく、“ま、何とかなりそうだ”くらいの感じですかね。いいものははっきりわからないけれど、ダメなものはほんとはっきり見えるので。

箭内: みんなには「全方位で考えよう」なんて言わないけど、自分ではある程度全方位考えてるってことですか?

古川: 直観で比較し続ける、という感じです。

箭内: 古川さん自身はどんどん速くなってます? ダメ出しを重ねて答えに到達するスピードって。

古川: 速くなっています。それは、深いところまで到達する速度という意味ですね。クリエイティブは結局筋トレなので、毎日予習復習を繰り返せば筋力がつきます。もちろん課題は毎回違いますから、中身はゼロからですが、使う筋肉は同じなのでより速く強くなっていくと思います。クリエイティブ・ディレクションって、実は技術ですから練習すると上達するんですよ。上達するっていうのが、なんか、ちょっとはずかしいですけれど(笑)。箭内さんはどうですか。広告以外も多いと思いますが。

箭内: いやー、僕も受けてみたいですね、古川さんのクリエイティブ・ディレクションを。これから僕はどうしたらいいですか?

古川: 全然そのまんまでいいと思うんですけれど、広告本業の人から見ると考えられないくらい、もっとずっと広告から遠くておもしろいこと、新しいこと、広告では到底できないようなことをやってほしいと思います。せっかく何やっても怒られないところにいるんだから。
歴史的にみると、これからどんどん仕事と遊びの境界はなくなっていくはずです。絵文字の開発とかゲーム選手権とか、いままで仕事と認知されていなかったことが、すでに仕事化されています。それは、初期段階は、例外なくあやしいものです。だいたい、ものごとの変わり目にいる“こと”“人”はあやしいものです。それが、新しくて魅力的であるということですから。
何やってるか、簡単に名指しできないような場所におもしろい鉱脈が埋まってるんです。
箭内さん、広告も手放さない方がいいと思いますが、それ以上に、わからないけどおもしろそうなこと、あやしいけどいい匂いがすること、意味なさそうだけどとりあえず誰もやってなさそうなことだけやるのがかっこいいと思います。ま、これはクリエイティブみんなに言えることですけれど。

箭内: 頑張ります(笑)。ちなみに広告のどんなところが好きなんですか、古川さん。

古川: それはいまだによくわからない。むしろ広告の仕事って本当に向いてるのかなあと。ただひとつ言えるのは、僕、実用性のまったくない人間なので99%の職業はできないんですよね。就職のときに「もしかするとできるかもしれない」と思ったのがマスコミ系の仕事で、始めたまんま続けてる感じですから、いまだに「本当に向いてるんだろうか?」って思います。考えたり創ったことを世の中に見てもらえる商売ではあるし、良くも悪くもすぐに結果が出るし、そういうところは好きなんですけどね。あと、広告で本当に大事だと思うのは…

箭内: それはなんですか?

古川: "品みたいなもの"だと思うんですよ結局。最終的には、広告は品性の戦いになる仕事だと思います。ほんとの意味の”育ち“とか、”教養“とか。なぜなら、広告は、基本経済行為でありながら、なんつったって表現行為だから。品・育ち・教養と並べると、goodを競い合うみたいだけれど、全然逆で、この対談シリーズのタイトルじゃないけれど、ロックする時というか、誰もやらないことをやろうとする時とか、リスクあるけど新しいこととか、顰蹙買いそうだけどやれたらすごそうなこととか、要するにやばいことを勇気を持ってやってみようとする時こそ、僕たちの仕事はいちばんかっこよくて、職業としての意味を持つ。で、それの最大の拠り所が、品性だと思うんです。どんなに上手にできていても、最後はそれがどうしても出てきて、ほんとの良い悪いを決める。一番おもしろいのはそこなんですよ。広告は自分なんて1ミリも出さないんだけど、最後の最後、何か決定的なことをそこが左右すると思います。

箭内: そう。見る人たちはそこを一番味わってますよね。ロジックとか企画コンテじゃなくて表現の手触りというか。